昭和十三年八月一日2017年07月23日 13:02



今日、輕井沢へ行くつもりだったが、私がねつを出したので明日行くことにした。
 きのふよりねつがさがったのでお床の上でおりがみをしてあそんだ。
 午後、從兄がすこし前からびやうゐんにはいって居たが急にわるくなったのでみんなびっくりしてかへって來た。をば様はすぐにびやうゐんへいらっしゃった。


昭和十三年八月二日2017年07月23日 13:05




 きのふお母様が從兄がとても惡いさうなので當分いかれないでせうとおっしゃったのでつまらなかった。
 朝、新宅でトランプや花あはせをしてあそんだが、なんだかしんぱいでいつもよりもおもしろくなかった。
 新宅では女中さん一人と從姉たち三人だけなので、しげ子ちゃんなどはとても心ぱいさうだった。

昭和十三年八月三日2017年07月23日 14:01

 

 朝、いろいろな事をしてあそんで居るうちに、從姉たちのをば様がいらっしゃって、從兄は死んだとおっしゃったのでしばらく口がきけないくらいおどろいた。すぐにそこにあるミシンやつくえなどを家のおくらの前へはこんだ。氣の弱いしげ子ちゃんはもう目をまっかにして泣いて居た。
 それからおひるごはんを家へよんでたべた。午後におくわんがきたがみんなこはがって行かなかった。
 夜のごはんも家でごちそうした。それからやうやく新宅へ行って。おせんかうをあげたらなんだかかなしくなってしまった。


昭和十三年八月四日2017年07月23日 14:14

 

八月四日  新宅はいそがしいので從姉妹たちは家へとまった。
十でふのざしきへ五人なのでとてもきうくつだった。
私はお姉様とひろ子ちゃんとの間へはさまれてろくにねられなかった。

昭和十三年八月五日2017年07月23日 14:24


今日午後一時から告別式があったので、私たちも黒い洋服をきてさんれつした。なくなった從兄のお友だちがちゃうじをおよみになった。大きいお姉様やおば様などみな泣いていらっしゃった。 

そのあとでみんなおせんかうをあげて家へかへった。



登場人物の説明2017年07月23日 14:35

繪日記の中の登場人物と和子との関係
 
 ■父 岡沢亀寿(カメジュ) 当時、三井生命勤務。住まいは文京区西片。
母 岡沢淑子(ヨシコ) 
長兄 岡沢広二(コウジ) 北大卒業後サラリーマンになるが、心ならずも陸軍軍人となる。太平洋戦争以前の中国との戦争(日支事変)、北支、中支を騎兵将校として転戦する。後、傷を受けて除隊。サラリーマンに戻る。習志野騎兵連隊で三笠宮(ヒゲ殿下の父)と同隊であった。
長姉 草間栄子(エイコ) 東京の住まいは大久保。夫の正雄は太平洋戦争(大東亜戦争と称した)の国民男子皆兵の掛け声のもとに、三十歳を過ぎた妻子持ちなのに陸軍一兵卒としてビルマ方面へ送られ戦死。長姉は女手一つで三人の子を育てた■長女範子(ノリコ)、長男幹雄(ミキオ)。次女箙子(フクコ)は父の顔を知らない。
次姉 斉藤寿美子(スミコ) この日記当時は府立第二高女(現竹早高校)在学中■後半下半身障害者椅子生活になるが美人で健康な女学生だった。
次兄 岡沢貞雄(サダオ) 誠之小学校から中学高校一貫校の国立東京高校(廃校で今はない)に進む。進学校として名門校だった。特徴である白線2本入り帽子の制服姿。
末娘 井上和子(カズコ) 本人。日記を書いた時は小学4年生。
となりの叔母といとこ 隣家は通称新宅(シンタク、分家の意味もある)と称しており、親切な叔母は小倉百人一首が好きで正月は毎晩カルタ会をやった。和子への影響は大きい。 しげ子、ひろ子、やす子3人のいとこは同年輩なので親しかったが男のいとこはずっと年上で変人だったのでつき合いはない。

日記はこのいとこの死から始まる。