和子さんの冬休み絵日記2020年12月22日 17:29

昭和十六年 十二月二十九日 月曜 睛

ずい分寒い。庭に霜柱が立ってゐる。その霜柱の間に時はづれのすみれが濃い紫色の花を一輪咲かせてゐるので驚いた。
寒さと戰って咲くすみれに尊い教訓が含まれてゐる様に思ふ。

母と姉が買物に行かれたので御倉からお重箱やおとその入物を出して洗った。前のお正月にはきんとんだのだてまきだのかまぼこだのいっぱいあったんだなぁと思ひ出す。

夜、かぶの酢の物をつくる。

ラヂオによれば今夜は防空演習を行ってゐるさうな。さういへば絶え間なく飛行機が行く。もしや敵機が近づいたのではあるまいか。暮だからと云って、お正月だからと云って、決してゆだんをしてはならないと思ふ。

昭和16年12月29日

和子さんの冬休み絵日記2020年12月22日 17:48

昭和十六年 十二月三十日 火曜 睛

つい此の前お正月だったと思ったら、もう晦日になってしまった。

こんな様では十年や二十年、忽ちにたってしまひさうだ。

女中が配給の鮭を取りに行った時、出征家族だからと特別におおきなのをくれたと言ふ。

午ごろ、横浜にある前家に居た女中がかにだのとりだの野菜だの持って來てくれた。

おいもがないから(栗はもとより)きんとんが出來ないと悲觀してゐたが、おいもが來たので早速きんとんにする。

母はあんまりお砂糖を使っちゃだめよとニヤニヤしてゐられた。

御佛檀と神棚のらふそく立などをみがいたら、ぴかぴかになって気持ちがよい。

昭和16年12月30日