昭和十七年八月十八日 ― 2020年04月25日 11:21
※文部大臣 戦時下だから夏休みを短縮すべしとの文部大臣の命令。実際にこの秋から、学生、生徒の各種勤労動員が始まる
※ゆふがほ とうがん(冬瓜)のこと
昭和十七年八月十九日 ― 2020年04月25日 11:28
座席はうまくとれた。ポォッピィッピィッと三つのちがふ汽笛をならして汽車は靜に動き出した。ゆっくりゆっくり走る。一面霧がかかってゐて、あたりの景色はおぼろげにしか見えない。矢ヶ崎山の裾だけ見える。ゴットンとにぶい音を立てゝ二十六号トンネルへ入った時はもうおしまいだと思った。
熊ヶ谷の駅でプラットホームの前の方にアイスクリーム売りがゐるが中々こっちへこない。汽車が動き出した、兄が「よし、うまく買ってやれ」と動いてゐる窓口で「四ツ」といってお金をわたす。さうたう早く走ってゐるので、売子はソレッとか言ってアイスクリームの入ってゐる箱ごととび上って四つわたしてくれた。まさにキキイッパツである。乗客の感歎した様な顔、うらやましげな顔……(アイスクリームは少ないのです)
汽車は雨の中を通ったり晴れた所を通ったりして東京へ近づく。雨が降ってゐるので毛織の上衣を着てゐたが、赤羽まで來ておかしいからぬいだ。東京まで着て行ったら人が笑ふだらう。
上野で自動車を待つ間、町がごみごみしていること、さうざうしいこと、汚らしいのでびっくり。きょろきょろした。
家へつく。女中※がおさうぢしたと見えて中々きれいだ。さてこそ我が家なりといふ気がする。今日はとっても涼しい日ださうだ。ヘェこれでも……。何となくムッとする。
※女中 住み込みのお手伝いさん。この年くらいまで都会のサラリーマン世帯にはたいてい居た
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