和子さんの夏休み絵日記④ 平成に書かれた前書き2020年04月30日 15:53

はじめに

  夏休み絵日記もこの第四巻が最終巻です。 拙い絵と文におつきあい下さってありがとうございました。

 前半は四人の少女達がにぎやかに十日間の合宿をしています。後半は家族がおだやかな夏休みを過ごしていて、一見戦争の影はどこにも見当たりませんが、前年の昭和十六年十二月八日に太平洋戦争は始まっています。真珠湾攻撃からマニラ、シンガポールの陥落等、勝報が続いて、善良な国民はよろこびに沸いていました。しかし、次第に軍の報道規制がきびしくなり、太平洋を取り巻く島々に送られた兵士達がどのような苦戦を強いられているのか、多数の軍艦や飛行機の喪失は殆ど知ることがなかったのです。日本髪の流行は浮かれた気分の延長だと思います。
  衣料、食料の欠乏が日増しにきつくなり、私達にとっては、この方が直接戦争を感じさせられる大問題でした。

  甘いものが食べたくても砂糖がない。ショートケーキやおはぎの絵を描いたりしました。

  この戦争は最後に神風が吹いて日本は勝利するのだから、今は国のために何事も我慢すべきだと信じこまされる教育でした。

 さて、絵日記登場人物の消息です。

  明治生まれの父母は、当然ながらおりません。長姉と長兄は他界しました。  戦争未亡人となった長姉は、幼児三人を抱えながら戦後の混乱期を生き抜き、子供達を成人させました。

  姪、甥達はそれぞれの伴侶と共に七十才前後となり、思い出の南ヶ丘に小さな別荘を三軒並べて建てて、四季折々に交流しているようです。

  次姉、次兄は東京在住でないのと高齢のため、やや疎遠になっています。

  四人の少女達は、九十才の夫を介護する私以外は未亡人。体の不調を慰め合いながら電話やメールで友情を保っています。

  空襲の火の粉を浴び、自宅の炎上を目の前に見、低空で襲いかかるB29を避けるために縁の下に身をひそめて夜明けを待ったあの体験は、生涯忘れることはないでしょう。

  神風は吹くことなく敗戦で戦争は終わりましたが、私達はその日から自由と青春を手にすることができました。              


  平成二十三年 八月吉日    井上和子(旧姓・岡澤和子)  

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