昭和十七年七月二十四日2020年03月22日 14:19

七月二十四日  

五時半に起きる。旧道※へ買物に行くのである。  

不破さんの叔父様のいらっしゃる三笠ホテル※へ行って休んで食事した。  

三笠から旧道へ行く途中、外国語をつかっちゃいけないとか日本語つかっちゃいけない遊びをして面白かった。  

旧道は去年より(去年だって随分少なかったが)もっと人が少なく、お店だってまだ閉まってゐるのが多く、品物だって少なくてつまらなかった。  

買物をすませて自転車をかりてもう一度三笠へ行った。行きは登りでつらかったが、かへりは道がいゝし下りなので、足をふまなくてもスルスル走る。  

草輕電鉄に乘ったら霧がかゝって來てゾクゾクするほど寒くなって來たが、北輕井澤についたら陽が照って來た。  

加藤さんといふ御店で氷水を一杯食べた。とてもおいしかった。



※旧道  軽井沢

※三笠ホテル 老舗の有名ホテル。ジョン・レノン、オノ・ヨーコが宿泊した






昭和十七年七月二十五日2020年03月22日 15:20

七月二十五日  
 午前中はぐずぐずして午後クラブ※に行った。みつ豆とカルピスを食べて(食いしんぼ)ピンポンした。アブがワンワンゐてこわい。そしてクラブの御風呂へはいった。半円形の大型の御風呂に入って外の方を向いてゐたら、後ろでパシャリと御湯がかかったのでびっくりして見たら、不破さんがYW※のプールのつもりか、足をドタバタさせてゐた。  
 それから駅前の加藤さんの御店で氷水を食べた。




※クラブ 大学村の集会所 

YW  駿河台のYWCA室内プールに行くことを学校が許可していた

昭和十七年七月二十六日2020年03月22日 15:24

七月二十六日  
 今日は鬼押出※に行く。おにぎりをボール箱一ぱい。お野菜のバタ焼きと牛カン※。それだけのおべんたう。リュックに入れて交たいで背負ふことにする。叔母様は東京だし、御姉様は輕井澤に御用でいらっしゃれないので、私達四人、それに古橋さんの榮坊※が行くことになってゐる。
  古橋さんの家の前を通ると、榮坊が井戸端で御米をといでゐたので先に駅に行ってまってゐた。しばらくして榮坊が來たので出發。一匡村※を通り、みそぎ村※をすぎると道はにはかに淺間の焼砂とゴロゴロした岩石の露出した道路になる。今朝曇ってゐたので雨の用意や毛糸のものなど持って來たが、この頃から陽がかんかん照り出して、江沢さんなど相當まいったらしい。 
 北輕から丁度二時間位で岩窟ホール※に到着。階上で休む。それからコースをたどって溶岩の冷えかたまった岩の間を通って行く。今私達の立ってゐる下(何十米かの)に、鎌原其他の部落の家、田畑人家残らず埋もれてゐる事を思ふとき、當時(天明三年)のありさまが目に浮かんで見える様だ。岩石の重なり合ってゐる割れ目のそばに行くとヒヤーっと冷めたかった。
 コースの途中の平らな所を見つけておべんたう。皆モリモリ食べること食べること。スッカラカンに平らげた。そのあと寫眞を寫していただいてもと來た道を引きかへした。 




 駅で御姉様に丁度よく出會った。まだ晝御飯を食べてないとおっしゃるので榮坊のうちへよってごちそうになることにする。榮坊が台所で何かごとごとやってゐる(榮坊は一人で自炊してゐるのです)けれど來ちゃいけないといふのでこっちの部屋でまってゐると、御皿へいため御飯を持って來た。私達もすこしづつごちそうになった。中々おいしい。私達よりうまい位だった。 
 夜十時頃になって、中井さん※が道にまよっておそくなったとおっしゃりながらいらっしゃった。


※鬼押出 浅間山大噴火の溶岩流のあと

牛カン 牛肉大和煮の缶詰。行楽に持ってゆくこと多し

※古橋さんの榮坊 古橋別荘の息子さん。学生

※一匡村( いっきょうむら) 正しくは一匡邑。大正十二年、知識人数名が発起人で開村。この日記当時で戸数は十数戸という

みそぎ村 開拓地らしいが詳細不明  

※岩窟ホール 鬼押出の中にある休憩所

※中井さん 不破家のお客様



昭和十七年七月二十七日2020年03月22日 15:30

七月二十七日  
 朝御飯を食べてゐたら、ヒョッコリ叔母様が東京からかへっていらっしゃった。明日だらうと思ってゐたのでびっくりした。しばらく御飯を続けてゐると食堂の向ふ側のガラスをだれかたゝいた。其の時、食堂には皆のこらず居たので、だれだかわからない。驚いて外へとびだしたら、何とモンチャンだった。今日の御客様は両方ともうれしかった。 
 今日は吾妻牧場※へ行く豫定。叔母様と中井さんは留守番でモンチャン、御姉様、私達それに榮坊に行ってもらった。途中まで來てモンチャンは疲れたといって家へ歸った。牧場の近くになって江沢さんが眞赤なブラウスを着ていらしたことに気が附いた。もし牛がおこったら大変なので榮坊のレインコートを着て牧場に入った。 
 芝生が一面に続いてゐて、大きな木の下になった場所でおべんたうをひろげた。きのふと同じ様なおむすびとかんづめ。とてもおいしい。良い天気にこんな景色のいゝ芝生の上で食べればおむすびだけだっておいしいね、と誰かゞ言ふ。ほんとにさうだ。御飯のあと、しりとりや物語を続ける遊びをして早目に引き上げた。

※吾妻牧場 淺間牧場もあった