昭和十七年八月十一日2020年04月13日 17:35

八月十一日  

 朝は少し曇ってゐたがまもなく一点の雲もない快晴になった。ランニング一枚になって姉と短棒投げをする。中々うまく投げられない。日がかんかん照ってゐたけれど時々ひやっとした風が吹いていい気持ち。





 午後洗濯をし、物干にかけて置いたら一時間半位でかはいてしまった。


  淺間がちっとも煙を出してゐないので近いうちに爆発すると言ってゐたが、知らない間に(残念!)爆発したらしく、見たときは大きなうす茶の煙が大きくひろがってこっちへおほひかぶさって徐々に流れて來た。そして灰がサラサラ音もなく降って來た。さうたうの降灰だった。




昭和十七年八月十二日2020年04月13日 17:38

八月十二日  

 姉は旧道でお友達と会ふ約束があるので行かれないが、母、兄、私は碓氷峠へ登った。大きい道の方へ行かずに小道を通ったので靜で、涼しくてとても良い気持ちだった。峠は千百米位の高地である。この遠足の目的はといへば、先づ名物の力餅を食べに行くことである。純綿のアンコ※があるさうで……ところが行って見たら(途中どうも例年より人に沢山あふ…と思ったけれど)どの店もずらっと人がならんでお餅を買ってゐる有様。しかたがないからとうとうならんだ。我ながらあさましい。三十分だかまって手に入ったけれど、ほんとにおいしい。東京なんかぢゃどこにもあるまいと思ふ。
 
 見晴台へ行かうと思ったが時間がないし、天気もあまりよくないのでやめて帰りは大きな方の道から下りた。

  夕方、南ヶ丘の姉の所へ、皆で明日來る様に言ひに出掛けた。途中で向ふを歩いてゐるのが姉と範子ちゃん(七つ)と幹雄ちゃんらしいので自轉車のベルをならしてみたらやっぱりさうだった。
 
 明日いらっしゃいと言へば、退屈だからこっちへ來てほしいと言ふ。それに裏の方にうづらみたいな鳥がゐるから皆が來てくれゝば鳥狩りをしようとのことだ。そんならあした行くと言ってわかれる。

  淺間の降灰あり。



※純綿のアンコ 「純」がつくのは混じり気のないの意味で、この場合は人工甘味料でなく砂糖を使ったアンコのこと